ショートムービーを観た気分にさせる曲たち

MUSIC

「今年最後のシャーベット」  小泉今日子

1987年のアルバム『Hippies』に収録。まずイントロがいい。ちょっとひんやりした感じで。
「編み上げた髪ほどくのが そんなにイイわけ?」って、この一言に失恋のやるせなさと悔しさが詰まってる。このフレーズを聴くためにこの曲を聴き続けているといってもいいというくらい好き。
髪をほどく仕草で女の魅力を図る程度の男だったと思って吹っ切りたい気持ち、よくわかる。

中秋のころ。バブル期の渋谷パンテオン辺りのモノクロを基調にしたカフェテラスで、ほろ苦い偶然をやり過ごしたあと「髪、伸ばしてみようかな…」とふと思う気持ちに癪に触りながらシャーベットをほおばるシーンが浮かぶ曲。

Hippies』は他の曲も好きで今でもよく聴く。バービーボーイズのイマサはじめ曲提供陣のラインナップが素晴らしい。PATi-PATiな感じのアートワークもキョンキョンの見た目もスタイリングもスキ。

編み上げた髪をほどくほどの長さがない失恋した女の子感が滲み出てる。キョンキョンカワイイ。

「白い服、白い靴」  松任谷由実

これだけ凝縮された短い詩の中で再会から結末までを完璧に記した曲が未だかつてあっただろうか。いや、ない。わたしの知る限り。(いや、やっぱ多分あると思う)

その状況になったらこの主人公と同じ行動をしてしまうかもしれない、っていう醜い部分を雨が浄化してくれるというストーリー。
窓の外を眺めながら電話を切った時は切なかったけど、実はほっとしている。
雨降りじゃ白い服も白い靴も台無しだもの。
言い訳まじりに苦笑いしながら自分のことが大嫌いになる。

京王新線の初台駅で肩をたたかれたイメージで。
明大前で乗り替えた井の頭線に揺られながら、あの時のことをたまに思い出す感じ。


「カルアミルク」  岡村靖幸

一言や二言では尽くせない感情やら背景やらが、この曲には散らばっていていて、がんばってはみたもののちっちゃな根性すら身につけられなかった自分に心当たりのある人ならジンとくるのではないでしょうか。
いやしかし。10代のころからこの曲を聴いていますが、歳を重ねるにつればかげたプライドほど無用なものはないと感じ入ります。

WAVEに立ち寄って裏道からいつもの店に向かって、華やかな世界と自分の現実に眩暈がする。
中国茶の匂いはここにいることを肯定してくれるからありがたい。
極彩色の扉のさらに奥にいつもの安らぎが待っている。
光と影が極端に同居する街で、昔とも言えないちょっと前の空気と、そのとき漂っていた甘い匂いを辿っている。
そんなあのころの六本木が、粗い画像とともに息を吹き返すみたいな曲。


「STILL LOVE HER」  TM NETWORK

ロンドンが舞台というだけで私の中の優先順位はグンと上がるのですが、そのアドバンテージを無効にしたとて、この楽曲の素晴らしさは見逃せないし、きっと私のアンテナはキャッチしたはずだと思います。
とはいえ、ロンドンの風景が手に取るように見えるところに、この曲に惹かれる意味が大きいのも事実。

ベイズウォーターからまっすぐボンドStに向かうにつれ賑やかになる街並みを歩くのが日常になった。余計なことを考えないように一定のテンポを刻んで歩くいつもの道。途中ケンジントンガーデンにそれて土の匂いを嗅ぐと吐く息の白さが一層際立つ。
巻き戻せない時間をたまに憂う時もあるけれど、立ち止まる自分のこころを、忙しない街の喧騒が現実に引き戻してくれる。
セルフリッジズを左手に見て二本過ぎた路地を入る。一方通行の細い道から見える風景が今の日常ということに不満はないけれど、希望そのものかというときっとそうではない。そうではない世界だとしてもここで生きてゆくのだと思う。きっとあの人もそうしているように。
そんなやるせない想いとロンドンの街並みが見える曲。


曲はおおむねショートムービーのようにストーリーを感じるものではありますが、それは自分の経験とか感覚とか、もしくは願望みたいなものが反映されて心に染み込んでくるのでしょう。
染み込み過ぎてたまに「あれ、これ私のことかな?」みたいな錯覚を抱くくらい妙にリンクすることありますよね。
まあ勘違いですけども。

こうして曲が楽しめるのもアリストテレスのおかげかも、と先日「美学概論」という科目を学びながらつくづく思ったわけです。プラトンの理論ばかりが発展してたらこうはなってないと思うと「グッジョブ、アリストテレス!」です。

ところで。
歌詞を書き写すのは写経みたいなもので、いろいろ浄化されます。
字を書くことがストレス解消になるというのを、ここ最近実感しています。
今後ライフワークとして続けていきたいと思っているのは一年前から続けている「松本隆 歌詞写経」。
書きながら曲を聴くと解像度がブラウン管から4Kくらいクッキリするからやめられない。
字にはその時の精神状態が現れるのでおもしろい。
やさぐれている時はやさぐれた字が、そうでない時はそれなりに。

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